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開港の街・神戸を訪ね、
コーヒー文化の源流へ〈兵庫県〉
港町・神戸は、日本のコーヒー文化が芽吹いた地として知られています。
開港とともに広がった一杯の歴史は、今も街の随所に息づいています。
コーヒーを手がかりにその歴史をたどる1泊2日の旅へ出かけます。
異人館の坂を歩き
開港の記憶にふれる慶応3年(1868)、開港によって世界へ扉を開いた神戸。外国人居留地を通じて西洋の食文化がもたらされ、その一つとしてコーヒーも人々の暮らしに浸透していった。コーヒーは、輸出入で栄える港町で外国の商館や船員たちの需要に応える形で広まり、やがて喫茶店が社交場として根付き、現在では、老舗の純喫茶から現代的なロースタリーカフェまで、多彩なコーヒー店に出合うことができる。
旅の起点は新神戸駅。新幹線を降り、駅から北野方面へ歩くと、明治時代に外国人向け高級借家として建てられたうろこの家(旧ハリヤー邸)が姿を現す。天然石を貼った外壁が特徴で、館内にはマイセンの磁器やアール・ヌーヴォーを代表するエミール・ガレのガラス工芸品などが並ぶ。当時の外国人居留者の暮らしを具体的に伝える展示は、神戸がいかに早く西洋文化を受容したかを物語っている。
そのまま神戸北野異人館街を散策する。開港後、神戸に居留した外国商人や外交官、技術者の住宅地として形成された一帯で、現在も明治から大正時代に建てられた洋館が約30棟残る。当時の建築様式や生活文化を今に伝える街並みは、西洋の食文化やコーヒーが神戸に根付いていった往時の様子を思い起こさせる。石畳の坂、異人館の窓辺、瀟洒〈しょうしゃ〉なカフェ……。港から始まったコーヒーの歴史を思い描きながら、喫茶を巡る旅が始まる。
歴史・器・焙煎……
神戸喫茶の奥行き神戸北野異人館街を後にして北野坂を下る。次に立ち寄ったのは、北野坂にしむら珈琲店。昭和49年(1974)に日本初の会員制喫茶店として開店した、神戸の喫茶文化を象徴する一軒で、店内にはアンティークの家具が配され、重厚で落ち着いた雰囲気が漂う。現在は会員制ではないので、誰でも利用可能。創業当時からの設えを大切に守り続け、静かにくつろげる大人のための空間を提供している。丁寧に淹れられたコーヒーと軽食を味わい、次の一軒へと向かった。
元町駅方面へ移動し、ケルセン神戸直営店へ。ポーランドのハンドメイド食器・ポーリッシュポタリーが整然と並ぶ店内は、異国の台所のような温もりを帯びている。器は繊細な絵付けが施されながらも耐久性に優れ、日常使いに適していると人気を集めている。思わず手に取りたくなる品々だ。旅先で出合った器を持ち帰る……。それは、旅と日常をつなぐ小さな思い出になるだろう。
次に向かったのは自家焙煎コーヒー豆専門店・コーヒーローストワンズ。ドリンクの販売に加え、世界各地の生豆を常時約35種類揃え、注文ごとに浅煎りから深煎りまで好みの焙煎度で、その場で仕上げてくれる。注文した生豆が焙煎し終わるのを待つ間には、サービスとして日替わりのコーヒー1杯が供されるのもうれしい。焙煎機が回る音とともに、徐々に仕上がりへの期待が高まっていく。立ち上る熱気と香りに包まれるうちに、次第に豆は色づき、香りを変えていく。
コーヒーは単なる飲料ではなく、これらの工程を含めた文化なのだと実感した。
