老後に備えるあんしんマネー学 第22回

さまざまな情報が飛び交うなか、老後資金に不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
お金を上手に管理して、老後を安心かつ心豊かに暮らすための、備えのマネー術を紹介します。

知っておきたい
相続と贈与の制度

文=畠中雅子 写真=平田利之

高齢期に入ると、相続税が気になるご家庭も多いのではないでしょうか。
実際に相続税を支払った方は、12人に1人程度です。
「意外に少ない」と思われるかもしれませんが、相続人1人の納税額は平均で1700万円を超えています。
相続税がかかりそうなご家庭では、相続対策や納税資金の確保などが課題になります。
そこで今回は、相続税の基本を説明しつつ、相続対策として利用される贈与についてもご紹介します。

相続財産が基礎控除を
超えると相続税が課税される
まずは、相続税について説明します。相続税には基礎控除が設けられていて、基礎控除は3000万円。法定相続人1人につき、600万円が加算されます。たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人であれば、3000万円+600万円×3人=4800万円が基礎控除額になります。

基礎控除に加えて、生命保険に加入している場合、死亡保険金には基礎控除とは別枠の非課税措置が設けられています。死亡保険金の非課税枠は、法定相続人1人につき500万円。先の例と同じく相続人が3人の場合、500万円×3人=1500万円までの死亡保険金については、相続財産に加算せずにすみます。生命保険に加入することも、相続対策につながるわけです。

基礎控除を超える相続財産を持っていると、相続税が課せられるのですが、基礎控除のほかに、相続税を軽減できる特例がいくつかあります。その中から、多くの方に関係するのは「小規模宅地等の評価減の特例」と「配偶者の税額軽減の特例」の2つです。

小規模宅地等の評価減の特例とは、亡くなった方と同居していた親族が、相続税のために家を失わないように配慮された制度。同居していた相続人、あるいは別居であっても持ち家のない相続人が亡くなった人のマイホームを相続した場合には、不動産の評価を80%も減額してもらえます。同居せず、かつ持ち家のある相続人にはこの特例が適用されず、100%の評価のままです。また、持ち家のある相続人と持ち家のない相続人が、共有名義で相続した場合は、持ち家のない相続人が相続した持ち分にだけ、小規模宅地等の評価減の特例が適用されます。


配偶者には1億6000万円
まで非課税措置がある
もう一つの「配偶者の税額軽減の特例」は、亡くなった方の配偶者は、法定相続分までか1億6000万円までは、相続税を課さないとする特例です。たとえば課税対象の相続財産が5億円の場合は、2億5000万円までは非課税となり、相続財産が2億円の場合は、1億6000万円までを非課税にしてくれます。

配偶者の特例を利用すると、一次相続は非課税ですむご家庭が多いのですが、問題は配偶者の特例を使えない二次相続の時です。配偶者の特例を使って、配偶者の手元に多めの財産が承継されていると、次の世代の二次相続で相続税が課せられる可能性があるからです。非課税枠だけに注目せず、二次相続も考慮した相続対策が必要です。

また2つの特例とも、適用したい場合には注意点があります。どちらも相続税の申告期限(10ヵ月以内)までに、相続税の申告書の提出が必要だということです。言い換えれば、申告書を提出した人にのみ適用される特例になるわけです。「我が家は小規模宅地の特例が使えるから、相続税がかかりませんでした」という方に、「申告はされましたか?」と聞くと、その半数以上が、無申告のまま。申告が必要なことを知らない方が多いのです。無申告のまま10カ月が過ぎると、特例の適用ができなくなります。相続についての調査が入ると、無申告加算税や延滞税の対象になりますので、特例の利用を考えている方は、必ず申告をおこないましょう。

はたなか まさこ
ファイナンシャルプランナー。
新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演を行う。
「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」などを主宰。
『ラクに楽しくお金を貯めている私の「貯金簿」』(ぱる出版)など著書多数。

(ノジュール2022年8月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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