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伝統と最新が交差する街

エキゾチックバンコク

文=山口あゆみ 写真=入江啓祐

〝ほほえみの国〟とよばれるタイの首都・バンコク。
日本から約6時間のフライトで、異国感あふれる南国に到着。
近年、目覚ましい進化を遂げ、最新のビルが立ち並ぶ中、伝統もしっかりと守られ、人々の生活に息づいています。
寺、クラフト、食……すべてに美が宿り、心を潤してくれる街。
優しく、美しく、刺激的なバンコクにいざ。

訪ねるほどに魅了される
バンコクのお寺巡り
バンコクでは高層ビルが立ち並ぶエリアでも、歩いていると黄色い袈裟を着た僧侶とよく出会う。タイでは今も仏教が根付いており、個人で徳を積むことや人に親切にすることが大切とされている。タイが「ほほえみの国」とよばれるほどの人々の穏やかさや優しさはこの仏教の教えの影響もあるだろう。

そんなバンコク、旅の散策はやっぱりお寺巡りから始めたい。タイは王国で、現国王はチャクリー王朝10代目。代々王様は信仰の証として寺を建立してきた。お寺は仏様に捧げる美を結集した場所でもあり、旅人にとっては思わず写真に収めたくなるものばかりだ。

最初に訪れたワットベンチャマボピットは王宮近くの王室寺院。タイを近代化させ、人々から敬愛された名君ラーマ5世時代に建てられた。日本でいうとちょうど明治の鹿鳴館の時代だ。ラーマ5世は西洋文化にも開明的で、イタリア人技師を招いてこの寺院を造ったため、西洋建築とタイの伝統が融合している。イタリアのトスカーナから運ばれてきた大理石が贅沢に使われ(そのため大理石寺院ともよばれている)、教会のようなステンドグラスの窓もみどころ。各国から集めた仏像が並ぶ回廊も静かで凛とした空間だ。なかには日本から来た仏像もある。

チャオプラヤー川に面して立つワットアルンは三島由紀夫の小説『暁の寺』の舞台でもあり、早朝、朝日に照らされて輝きを放つ壮麗な仏塔の姿は、バンコクの象徴だ。バンコクを訪れたことがある人には懐かしい存在かもしれない。アユタヤ王朝時代に創建され、バンコク三大寺院の一つでもある。

仏塔が暁に輝くのは、壁面が無数の陶器に彩られているから。近づいてみると、細部まで美しく、見飽きることがない。アユタヤ王朝時代、王朝は中国からの陶器を珍重し、船で運んできた。その際に割れてしまった器の破片や、アユタヤ王朝が生んだベンジャロン焼の陶器片を使った、色彩あふれる細工がすばらしい。

バンコクはトンブリー王朝によって大河チャオプラヤー川の下流域に18世紀に拓かれた都だ。そして、19世紀、トンブリー王朝を滅ぼしたチャクリー王朝によって、現在のバンコクの中心部がある川の東側に遷都された。川の西側のトンブリー地区では、細い運河が発達し、「東洋のベニス」とよばれたバンコクの姿を今も残している。

運河沿いに地元で大切にされる無数の寺がある。かつては運河が〝道〞だったため、古い寺は運河に面して立っている。川を行き来できる小型のボートや水上バスで寺を訪ねるのも楽しい。ボートは1時間B1000ぐらいからチャーター可能。水上家屋の暮らしや花、緑などの熱帯植物も眺められる。寺の正面口も運河側にあり、参拝ルートとしても正式ということになる。

トンブリー地区の寺のいくつかは最近〝映える寺〞として旅行者に人気だ。なかでもワットパークナムは寺院の最上階にある仏舎利奉安塔が神秘的で美しいと注目を集めている。エメラルドグリーンのガラス塔と仏陀の生涯を表した天井画がほのかに光り、心奪われる。このたたずまいを写真に撮りたい場合は比較的空いている午前中早めに訪れるのがいい。

運河を隔ててワットパークナムの向かいにはカラフルでインパクトのあるお寺、ワットクンチャンがある。金色に輝く巨大な仏像の表情もエキゾチック。ビルマ(現・ミャンマー)の影響が濃いのだという。仏像の台座には巨大な口をもつユニークな顔をした像がある。インド神話に登場するラーフ神で月や太陽も巨大な口で食べてしまうそう。翼を広げた真っ赤なガルーダ、巨大な蛇神ナーガなど、ヒンズーの神様もいっぱい。

タイはインドと中国にはさまれたインドシナ半島にあり、カンボジア、ラオス、ミャンマーと国境を接している。それだけにお寺を巡るだけでも、さまざまな時代の各国の文化が入り混じったおもしろさを体感できる。

(ノジュール2025年2月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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