老後に備えるあんしんマネー学 第52回

さまざまな情報が飛び交うなか、老後資金に不安を抱えている人も多いのではないでしょうか。
お金を上手に管理して、老後を安心かつ心豊かに暮らすための、備えのマネー術を紹介します。

住宅ローンの完済については
50代で見直しをしましょう

文=畠中雅子 イラスト=平田利之

30代や40代でマイホームを購入し、まだ住宅ローンを完済していないという人も多いでしょう。老後の生活設計のご相談を受けていると、「退職金で住宅ローンを完済するつもりだ」と答える人が少なからずいます。しかし、退職金は老後の生活資金となる大切なお金。住宅ローンの完済のためだとしても、退職金の多くを返済に回すのはリスクが伴います。そこで今月号では、50代のうちに住宅ローンの完済について見直しを行い、退職金を少しでも多く、手元に残す方法をご紹介します。

定年時の住宅ローン残高を
アプリなどで試算してみる
住宅ローンの完済について見直しを考える際に大切なのは、住宅ローン残高の推移を知ることです。固定金利型の住宅ローンを利用している場合は、償還(返済)表に最終回までの住宅ローン残高の推移が記載されているので、償還表を確認しましょう。変動金利型の住宅ローンを利用している場合は、償還表には5年分の返済額や住宅ローン残高しか記載されていないのが一般的です。償還表だけでは、住宅ローン残高の推移を把握するのは難しいので、変動金利型の住宅ローンを利用している場合は、スマートフォンのアプリやシミュレーションサイトを活用して、住宅ローン残高を試算してみることをおすすめします。

アプリやシミュレーションサイトを利用する場合、住宅ローン残高の推移が分かるものを探してみてください。借入額、借入期間、金利、支払い開始月を入力するだけで、月々の返済額やボーナス時の増額分が即座に試算できるものなどいろいろあります。加えて、金融機関が作成するような償還表を、スマホ上で見られるアプリもあります。

変動金利型の住宅ローンの場合、先々の金利の動きは分かりませんが、とりあえずは現在の金利が続くと仮定して、試算を行いましょう。

退職金からの返済は4分の1
程度に抑えておくのが安心
定年時の住宅ローン残高が、数百万円程度まで減っていて、かつ退職金の4分の1以下であれば、住宅ローンを完済しても大丈夫でしょう。退職金を4分の3以上残せれば、老後の生活費に充分充てられるからです。定年時の住宅ローン残高が数百万円程度まで減っていても、退職金の大部分を返済に充ててしまうなら、退職金で完済するのはあきらめて、退職金の一部を繰り上げ返済に充てるのが安心です。残っている住宅ローンは、継続雇用中や再雇用中にコツコツと返済していきましょう。

継続雇用や再雇用で働くときは、定年前に比べて収入はかなり下がるはずなので、住宅ローンの返済が続けば生活費を切り詰めざるを得ません。やりくりは厳しくなりますが、いずれ訪れる年金生活の練習だと割り切って、返済を継続してはいかがでしょうか。

返済期間を2、3年短縮すると
65歳時点の残高を圧縮できる
ここからは、60歳などの定年時点では退職金を使わずに住宅ローンの返済を続け、年金生活に入る65歳のときに退職金で完済をするプランをご紹介します。住宅ローンの借り入れ条件は35歳のときに、3000万円を35年返済で借り、固定金利2%で返済していると仮定します。

ここでの見直しは、返済期間を短縮する方法を選択します。見直しをしないまま返済を続けた場合、返済の終了年齢は70歳。そして、65歳時点の住宅ローンは567万円ほど残る計算になります。

70歳で完済するはずの住宅ローンを、55歳のときに見直したとします。55歳のときに返済期間を2年短縮すると、返済の終了年齢は68歳。月々の返済額は1万3125円アップしますが、65歳時点の住宅ローン残高は174万円以上減らせます。3年短縮すると、返済の終了年齢は67歳。月々の返済額は2万1339円増えるものの、65歳時点の住宅ローン残高は283万円以上減らせます。

年金だけの収入で、月に10万円を超える住宅ローンの返済を続けるのはなかなか現実的ではないため、65歳時点で残りの住宅ローンを完済するプランです。働いている間に返済を続けることで、退職金を多めに手元に残すことができます。

はたなか まさこ
ファイナンシャルプランナー。
新聞・雑誌・ウェブなどに多数の連載を持つほか、セミナー講師、講演を行う。
「高齢期のお金を考える会」「働けない子どものお金を考える会」などを主宰。
最新刊『70歳からの人生を豊かにするお金の新常識』(高橋書店)など著書多数。

(ノジュール2025年2月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)

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