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元JTB 時刻表編集長と行く
鉄道歴史さんぽ
今まさに再開発の波が押し寄せる品川駅の周辺も、駅から少し歩けば、江戸の面影が色濃く残る街並みに出合えます。元時刻表編集長が鉄道発祥の地である高輪・品川エリアを案内します。
江戸の入口として栄えた
高輪から泉岳寺を目指す高輪といえば閑静な住宅街というイメージだが、かつては海を望む景勝地だった。江戸時代には大名が下屋敷を構え、明治時代以降は外国公館や皇族の邸宅が建てられるなど、昔も今も高貴な雰囲気が漂う。江戸の入口として栄えた高輪から泉岳寺を目指す
起点は、2020年にJR山手線では約50年ぶりの新駅となった高輪ゲートウェイ駅。3月に第1期開業をするオフィスやホテル、商業施設など5つの棟から成る「TAKANAWAGATEWAYCITY」が話題だ。そんな再開発が真っただ中の駅から徒歩数分の国道15号沿いにあるのが、高輪大木戸跡だ。「江戸時代はこの東側に高輪海岸が広がり、東京湾の海沿いに町がありました。高輪は大木戸とよばれる関所で、江戸の南の入口として旅人や送迎客で賑わっていたんですよ」と石野哲さんが解説する。
坂道が多い住宅街を進むと、名刹・泉岳寺に着いた。「泉岳寺は鉄道唱歌(東海道編)の2番で『右は高輪泉岳寺 四十七士の墓どころ〜』と歌われ、『忠臣蔵』の舞台としても有名です」と石野さん。
訪れた日は赤穂義士たちが討ち入りを果たした12月14日の数日後。本堂にお参りした後、赤穂義士墓地でお線香をあげ、静かに手を合わせた。境内には、討ち入り300年にあたり建てられた赤穂義士記念館もあり、義士の貴重な遺品などが納められている。忠臣蔵についてのビデオも上映されているので、時間があれば立ち寄ってみたい。
国道15号を南に進むと、ウィング高輪に突き当たる。「ここは、日本で3番目の営業用電車として開業した、京浜急行電鉄の前身・京浜電気鉄道の本社があった場所。ついでに言うと品川駅は港区高輪にあり、品川区ではないんですよ」とお茶目に語る石野さん。
品川駅方向を見ると、現在は高架となっている京浜急行電鉄品川駅の地平化工事が盛んに行われている。石野さんによると、「泉岳寺駅から新馬場駅までの区間を連続立体交差化することで、八ツ山橋踏切など3つの踏切が廃止されて、交通渋滞が解消されるそうです」。
今後はリニア中央新幹線の起点としての工事も進み、ますます便利で魅力的な駅になるだろう。
大規模な開発が進む品川で
江戸情緒漂う風景に出合う品川駅からしばらく歩くと、日本初の鉄道陸橋・八ツ山橋にたどり着いた。目の前には大迫力の京浜急行電鉄本線が、橋の下にはJR東海道本線、山手線、京浜東北線、横須賀線が走り、鉄道ファンにはたまらないスポットだ。「開かずの踏切だった八ツ山橋の踏切も、京急の連続立体交差工事でなくなる予定です。この光景が見られるのもあと数年ですね」と石野さん。
さらに歩を進めると、大都会のビル群とは対照的な風景が残る、品川浦舟だまりが見えてきた。品川浦は江戸時代まで豊富な水揚げを誇る漁村だった。東京湾とつながる水路には今も釣り船や屋形船が浮かび、のんびりとした昔ながらの風情が感じられる。
すぐ近くには歌川広重の浮世絵にも描かれた利田神社があり、寄ってみることに。境内には「寛政の鯨」の骨を埋めた鯨塚がある。寛政10年(1798)、品川沖に体長約16・5m、高さ約2mの鯨が現れ、品川の漁師たちが捕獲。江戸中で評判になり、11代将軍徳川家斉が浜御殿で上覧されたほど大騒ぎとなった。ここもまた、品川が海とともに発展したことを物語る貴重な場所といえそうだ。