50歳から知っておきたい「暮らしとお金」第5回

50代からでも間に合う
年金額アップ作戦

文=大竹のり子 イラスト=平田利之

公的年金の受給額を増やす
任意加入制度とは

昨今、「人生100年時代」という言葉をたびたび聞くようになりました。厚生労働省の調査によると、2019年9月には100歳以上の高齢者の数が初めて7万人を突破しました。90歳、100歳まで長生きすることが珍しくない時代が到来しています。このような時代に安心して老後を迎えるには、老後に向けて貯蓄をしておくことに加えて、将来受け取れる公的年金額を増やすことも大きなポイントになります。

公的年金を増やすための選択肢のひとつが、国民年金への高齢任意加入です。現在の制度では、国民年金の加入期間は最大で40年間です。しかし、60歳の時点で加入期間が40年に満たない場合には、60歳から65歳までの5年間、任意で加入することで、40年に近づけることができます。現在、会社員で厚生年金に加入している人も関係ないわけではありません。なぜなら、退職や定年などの理由で厚生年金から外れるのと、65歳より前に退職した場合は国民年金の高齢任意加入ができるからです。現在50代の人が20代だった1990年頃は、今のように学生の国民年金への加入義務はありませんでした。また、専業主婦が会社員の夫の「第3号被保険者」として年金に加入するようになったのは、1986年4月からです。現在50代なら、加入期間が40年に届いていないことは決してめずらしいことではありません。

高齢任意加入をすると、毎年どのくらいの年金が増えるのでしょうか。仮に60歳まで国民年金に加入し、加入期間が35年なら、国民年金の基礎年金額は約68万2600円です。一方、40年加入した場合の満額は78万100円(2019年度の金額)です。つまり、60歳から5年間、高齢任意加入をすることで65歳以降の毎年の年金額を約9万7500円アップさせることが可能になります〈表1〉。

もちろん5年間分の国民年金保険料として合計98万4600円(2019年の保険料をもとに計算)を納める必要はありますが、毎年約9万7500円多く受給することになるので、年金の受け取り開始から10年ちょっとで高齢任意加入として納めた保険料以上の年金を受け取れることになります。いまや、日本人女性の平均寿命は87・32歳ですから、65歳から年金を受給した場合、納めた額の2倍近くを受け取れる可能性は充分に考えられます。

付加年金または
国民年金基金で
年金額をさらにアップ

国民年金の高齢任意加入と合わせておすすめしたいのが、「付加年金」への加入です。付加年金は、本来は学生、自営業者などの国民年金の第1号被保険者が加入できるものですが、高齢任意加入で国民年金保険料を納付中の人も、同時に加入できます〈表2〉。60歳から高齢任意加入したら同時に付加年金も検討してみましょう。

付加年金は国民年金に上乗せする年金で、月額400円の付加年金保険料を支払うことで、1年あたり「200円×付加保険料納付月数」で計算された付加年金が、65歳から支給されます。

仮に5年間加入した場合、付加保険料の支払い総額は2万4000円(400円×60ヵ月)。それによって、65歳から毎年1万2000円(200円×60ヵ月)受給できるので、67歳になった時点で元が取れる計算になります。付加年金も老齢年金と同様に、生きている限り受給できる年金ですから、長生きするほどお得度は高まります。

また、同じく国民年金の第1号被保険者であれば、国民年金基金に加入することでも公的年金を増やすことができます。こちらも国民年金に高齢任意加入している人も加入できます。ただし、第2号被保険者は加入できません。終身年金や確定年金など7つの年金タイプがあり、1口目は終身年金と決められていますが、2口目からは老後設計に合わせて自由に選択できます。掛金は支給開始年齢、性別、年金タイプ別に決められています。

そのほかにも、過去10年以内に国民年金保険料の全額または一部免除の承認を受けたことがある人は、免除となっていた部分の保険料を後から納付する「追納制度」もあります。

どちらの場合も国民年金へ高齢任意加入していることが条件ですが、付加年金と国民年金基金は同時に加入できません。それぞれの特徴をよく知って、自分に合うほうを選択してください〈表3〉。

年金を増やすことは大切ですが、最低でも毎月1万7000円程度の保険料が必要です。60歳以降に保険料を支払うことを考えると、いまから保険料に充てるお金を準備しておくことも大切です。

大竹のり子〈おおたけのりこ〉
1975年生まれ。出版社の編集者を経て2005年女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」を設立。
現在、講演やメディア出演などのほか、『お金の教養スクール』の運営を通じて正しいお金の知識を学ぶことの大切さを伝える。
『なぜかお金に困らない女性の習慣』『老後に破産しないお金の話』など著書多数。
ファイナンシャルアカデミー取締役。一般社団法人金融学習協会理事。
http://www.fpwoman.co.jp/

(ノジュール2020年2月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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