50歳から知っておきたい「暮らしとお金」第7回

定年後の暮らしを変える
働き方・過ごし方

文=大竹のり子 イラスト=平田利之

定年後の働き方で
暮らしが変わる?
定年になったら、その後は「働く?」「働かない?」「どう過ごしていく?」。どんな選択をするかによって、人生の後半戦の充実度や豊かさが違ってきます。

定年後の働き方には、大きく次の3つのパターンがあります。

①定年退職する場合

②再雇用で継続して働く場合

③パートやアルバイトで働く場合

「夫」だけでなく「妻」の働き方によっても社会保険や税金の扱いが異なりますので、しっかり意識しておきたいところです。

一例として、妻がパートタイムなど扶養範囲内で働いていた場合、夫の定年後の働き方による家計への影響をみていきましょう。

①夫が定年退職する場合

夫の退職と同時に社会保険から外れることになります。夫婦ともに60歳以上であれば、国民年金の保険料を支払う必要はありません。しかし、妻が60歳未満の場合は厚生年金の扶養から外れることになるので、自分で国民年金保険料を支払う必要が出てきます。また、健康保険は、夫婦ともに国民健康保険に切り替わります。保険料は自治体によって異なりますが、加入人数と前年度所得で計算されますので、定年の翌年は現役時代の健康保険料よりも高くなり、家計への負担が増える可能性があります。希望すれば、退職後2年間のみ会社の健康保険に継続して加入できる「任意継続被保険者」という制度もありますが、全額自己負担になるため保険料は高額になります。

②夫が再雇用で継続して会社で働く場合

社会保険はそのまま加入でき、妻は扶養に入れます。ただ、扶養に入るためには妻の年収が130万円未満である以外に、原則として「扶養者(夫)の収入の半分未満」という条件があります。再雇用後の夫の収入によっては、妻の収入が夫の収入の半分以上になり、扶養から外れる場合もあるので、夫の収入に合わせた働き方が必要になってきます。

③夫がパートやアルバイトで働く場合

勤め先にもよりますが、基本的には週の労働時間が30時間未満の場合、社会保険に加入できません。退職する場合と同様に、妻が60歳未満であれば国民年金と、夫婦それぞれの国民健康保険の保険料を納める必要があります。こうした保険料負担を抑えるためには、妻が社会保険に加入するという方法も有効です。現在パートなどで扶養範囲内で働いている場合でも、労働時間を増やすことで社会保険に入ることができます。勤務先によっては、週20時間でも加入できる場合もあります。収入が増えることで所得税を多く支払うようになるかもしれませんが、妻が社会保険に入ることで、今度は夫を妻の扶養に入れられる可能性もあります。もし、それができれば、夫婦が個別に国民健康保険の保険料を支払う必要はなくなります。健康保険や厚生年金は保険料の半分は会社が負担してくれますし、妻自身が将来受け取る厚生年金額が増えるのも魅力的ですね。

ただし、夫より妻が5歳以上年下の場合は、加給年金についても意識しましょう。夫の厚生年金加入期間が20年以上あれば、夫の年金受給が始まるときに年間26万円〜39万円程度の加入年金をもらえる可能性があります。しかし、妻が社会保険に入り、過去と通算して厚生年金加入期間が20年以上になると、加給年金がもらえなくなります。「ねんきん定期便」などで、これまでの加入記録を確認してみるとよいでしょう。夫婦がともに社会保険に加入している場合も同様です。どちらか一方の働き方が変わった場合は、世帯単位で検討しましょう。

大竹のり子〈おおたけのりこ〉
1975年生まれ。出版社の編集者を経て2005年女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」を設立。
現在、講演やメディア出演などのほか、『お金の教養スクール』の運営を通じて正しいお金の知識を学ぶことの大切さを伝える。
『なぜかお金に困らない女性の習慣』『老後に破産しないお金の話』など著書多数。
ファイナンシャルアカデミー取締役。一般社団法人金融学習協会理事。
http://www.fpwoman.co.jp/

(ノジュール2020年4月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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