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「おかえりモネ」の舞台

ふたつの町を歩く

文=武田ちよこ 写真=飯田裕子

5月17日にスタートしたNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」は、宮城県を舞台に物語が始まります。
ヒロインのモネは、日本有数の港町・気仙沼で生まれ、緑あふれる内陸の町・登米で人生の目標を見つけます。
異なる表情を持つふたつの町を歩きました。

震災復興ののろしは
気仙沼港から
背伸びして見る海峡を〜♪

港で海を眺めていると、森進一の懐かしいメロディが浮かんだ。ここは港町・気仙沼。漁期を終えたサンマ漁船が何艘も、白い船首を並べて係留されている。その右手に延びる気仙沼市魚市場には頻繁に軽トラックが出入りし、長靴を履いた男たちが立ち働いている。「気仙沼市の人口の約7割は、水産業に関係しています」

気仙沼漁業協同組合参事の臼井靖〈うすいやすし〉さんはそう話す。漁に出る人だけでなく、製氷や運送、燃料から飲食業まで、気仙沼の人は何らかの形で漁業とつながって生きている。「だからまず水産業の復興を目指しました。現在は東日本大震災前と比べ、 額的には7〜8割まで戻っています」

震災のわずか9日後、当時の漁協組合長は漁業関係者を集め、「6月にこの港にカツオを揚げる」と宣言。市場関係者はもちろん、たくさんの人々が力を合わせて港と市場を復旧させ、ついに6月28日、気仙沼港は1艘のカツオ漁船の水揚げを受け入れた。こうして気仙沼漁業復活ののろしが上がる。

三陸・金華山沖は、黒潮と親潮がぶつかる潮目にあたり、世界三大漁場のひとつといわれる豊穣な海が広がっている。そのふところにある気仙沼港は、24年連続で生鮮カツオの水揚げ量日本一を誇る。ほかにもメカジキやマグロ、牡蠣やホヤ、サンマといった海の幸が、季節を追って水揚げされる。実は日本一がもうひとつある。それはサメの水揚げ量。気仙沼はふかひれの名産地としても名高いのだ。

気仙沼湾に面して立つ物産観光施設気仙沼海の市。ここにある飲食店リアスキッチンのメニューには、ふかひれラーメン、メカジキカレー、海鮮丼など、地物の海の幸を生かした料理が並んでいる。さっそくふかひれ丼を注文。とろとろに煮込まれた大きなふかひれが、ごはんの上にどんとのった中華丼だ。贅沢な気分と一緒にぺろりと平らげた。

復興が進む気仙沼には、新たに移り住む人もいる。気仙沼湾の最奥部に昨年7月にグランドオープンした商業施設、ないわん。ここの「拓(ヒラケル)」にあるクラフトビールの店BLACKTIDEBREWINGでビールづくりに励む丹治和也〈たんじかずや〉さんは、自動車設計の仕事から転身、新潟のマイクロブリュワーの工場長を経て、ここ気仙沼にやってきた。「ビールづくりがしたくてアメリカからやってきたジェームズをはじめ、一緒に働く仲間は皆、県外出身です。気仙沼には外からやってくる人を喜んで受け入れる土壌があり、前に進む力がすごいです。僕たちのつくる気仙沼のクラフトビールが、人を呼び込む力になればうれしい」と丹治さん。

港町の気質、ますます健在だ。

(ノジュール2021年6月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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