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圧巻絶景に豪快「わっぱ煮」、日本海の小島で大冒険

粟島[新潟県]

文=石田ゆうすけ 写真=中田浩資

黄金色の夕日に浮かぶこの島は西方浄土の入口とされ、岩に梵字を刻んだ板碑が盛んに作られました。
変化に富んだ海岸線は絶景の宝庫。
満天の星空に、この島だけの漁師料理も見逃せません。自転車で、徒歩で、小さな島を楽しみつくします。

島半周約15㎞の
絶景にひたるサイクリング
新潟県には有人島が二つあり、一つは佐渡島〈さどがしま〉、もう一つが粟島〈あわしま〉だ。かたや日本最大級の島、かたや周囲約23㎞、人口324人の、名前のとおり粟のように小さな島で、50歳以上の旅好き小誌読者なら椎名誠氏の著作「あやしい探検隊」シリーズで初めてその名を知ったという方も多いだろう。僕もまさにそう。「観光客のまったく入っていない日本海の孤島そのもの」で「実に気分がいい」と、椎名氏は仲間たちと呆れるぐらい何度もこの島に出かけ、キャンプしているのだ。どんな島かずっと気になっていた。

新潟の岩船港から1時間半ほど船に揺られ、正午過ぎに粟島に到着。原生林に覆われた島で、港周辺に内浦〈うちうら〉の町がこぢんまりと広がっている。集落はこの内浦と、島の反対側にあるもっと小さな釜谷〈かまや〉の二つだけだ。

港にあるカフェそそどで海を見ながら、昼食に魚カツバーガーを食べた。今日の魚はブリだという。妙にうまいのは、島でその時とれた新鮮な魚を揚げている、と聞いたからか。

店長の世良健一さんは東京都出身で、都内のカフェで修業していた頃に粟島浦村(粟島の自治体)が建てたこの物件を知り、9年前に妻と移住、経営を担うことになった。現在は二児の父だ。「島の人たちはみんなやさしいです。『島で生まれた子供はみんなの子供だよ』と言って可愛がってくれるのが嬉しいですね」と朗らかに笑う。

粟島には島民以外の車の乗り入れができず、タクシーもないため、島をまわるにはコミュニティバスか自転車を利用することになる。レンタサイクルは普通のママチャリと電動アシスト付きがあり、悩まず後者を選択、反時計まわりが楽だと聞いてまずは北へと針路をとった。海の向こうには新潟と山形の陸地が延々と続いている。

平坦な道を2㎞ほどこぐと坂が始まった。電動にアシストされ、汗もかかずグイグイ空へ、あはは、なんていい気持ちや、と笑っている間に島の北端に到着。まわり込むように島の裏側、外海側に入ると世界がガラリと変わった。

日本海の荒波と季節風にさらされた原風景的な断崖巨岩がペダルの回転に合わせ、ゆっくり動いていく。海上には島影一つなく、いかにも絶海の孤島だ。すれ違う車もほとんどなく、静寂に包まれ、大自然にどっぷりと没入しているうちに童心に返り、世界を独り占めしているような痛快さに満たされていった……と島ならではの快感に酔いしれていたのだけど、普通のママチャリだとちょっと話が変わるかもしれない。アップダウンがたぶん、まあまあ地獄かなと……(電動アシスト付き自転車は全部で12台、予約不可で早い者勝ち。幸運を祈ります)。

(ノジュール2023年8月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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