お悩み解決!旅するカラダ 第34回

動脈硬化

林忍先生
(文:湯浅真弥 イラスト:安齋 肇)

生活習慣病の最大原因である動脈硬化の予防が長寿のカギを握っています。
仕組みがほぼ判明しているだけに、
がん予防よりも実現の可能性は高いといえるでしょう。

動脈硬化の原因と仕組み

心筋梗塞や脳卒中のリスクを減らすには、
動脈硬化を予防しなければなりません。
そのためには動脈硬化の原因と仕組みをまず知る必要があります。

最大の原因はメタボ加齢とともに体の機能は低下していきますが、血管もしなやかさが失われ、硬くもろくなります。それが動脈硬化(どうみゃくこうか)です。動脈硬化が進んだ血管は破れやすくなったり、詰まりやすくなったりします。脳の重要な血管が破れれば脳溢血(のういっけつ)、詰まれば脳梗塞(のうこうそく)となり、心臓を栄養する血管が詰まれば、心筋梗塞となるわけです。どれも死に至る恐ろしい病気として、日本人の死亡原因の上位を占めています。

動脈硬化の原因は老化だけではありません。高血圧や高コレステロール血症、高血糖、喫煙、肥満、ストレス、運動不足などによっても起こります。中でも、メタボリック症候群を指摘されている人は注意が必要です。

動脈硬化は血管の内皮細胞が傷つくことから始まります。その原因は高血圧や高血糖などです。それだけでも内皮細胞が持っている動脈硬化を防ぐ機能は低下します。

さらに、血中のLDL(悪玉コレステロール)値が高ければ、今度は傷ついた箇所にLDLが付着するのです。

鉄を放置しておくと錆びます。これは空気中の酸素によって酸化されるからです。体内に発生する活性酸素は体の臓器や器官を酸化させます。血管に付着したLDLも例外ではありません。付着したLDLは活性酸素によって酸化LDLになるのです。

酸化LDLは異物と認識され、免疫細胞が攻撃しようと急行します。免疫細胞の一種であるマクロファージがLDLを貪食(どんしょく)、つまり食べつくすのです。

それが死骸の山となって「プラーク」と呼ばれるコブとなり、血管の内側を狭めます。この状態がアテローム動脈硬化です。この段階になると血流は悪化し、酸素や栄養分の運搬が滞るようになり、脳や心臓に症状が現れることがあります。

プラークはお粥のように軟らかく、不安定なものは破裂することも少なくありません。

破裂すると出血を止めるために血小板が作用し、血の塊となります。それが「血栓」です。血栓自体が血管を塞ぐこともありますし、血栓が剥がれて血管を通じて流れていき、先の血管を詰まらせることもあります。

これが動脈硬化のメカニズムであり、行き着く先です。

動脈硬化の予防とは

いったん動脈硬化が進めば、もとには戻りません。
ただし、生活習慣を改善することで悪化を防げます。
血管のしなやかさを取り戻すことも可能です。

予防はリスク要因の除去動脈硬化のメカニズムをみるとそれぞれの段階にリスク要因のあることがわかるでしょう。まず、血管を傷つける高血圧や高血糖を避けなければなりません。すでに高血圧や糖尿病を抱えている人はその治療を優先します。

血中のLDLコレステロール値が高い場合は、それを低下させることです。アメリカでは健診における血液検査の項目からコレステロール値が除外されたといいます。この情報をもとに、動脈硬化とLDLコレステロールは関係ないと主張する人もいますが、これは大きな誤りです。アメリカが検査項目から除外した理由は、アメリカ独自の医療経済事情が考えられます。LDLコレステロールが動脈硬化を引き起こすことは否定できません。

LDLコレステロール値を下げるためにサプリメントを利用する人もいますが、薬物療法のほうが効果は高く、健康保険が適用されるので、サプリメントより安価で治療が受けられます。

活性酸素については、それを除去する抗酸化物質を豊富に含む緑黄色野菜などを積極的に食べるといいでしょう。喫煙は血管を傷つけ、体内の活性酸素を増加させます。たばこの本数を減らすのではなく、完全な禁煙でなければ効果はありません。

最後に、動脈硬化を原因として、最近、中高年に増加している病気を紹介しておきましょう。それは「内頚動脈狭窄症(ないけいどうみゃくきょうさくしょう)」と「閉塞性動脈硬化症(へいそくせいどうみゃくこうかしょう)」です。

前者は頚動脈に動脈硬化が進み、血管が狭まることで脳への血流が悪化し、最悪の場合、脳梗塞を引き起こします。

後者は下肢の動脈硬化によって、初めのうちは足にしびれや冷感が現れ、進行すると少し歩いただけで痛みが生じる間欠性跛行(かんけつせいはこう)を特徴としています。

いずれの疾患も超音波検査など、体にやさしい簡単な検査で迅速な診断が可能です。

(ノジュール2016年9月号からの抜粋です。購入希望の方はこちらをご覧ください。)
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